会長挨拶

第12回日本消化器外科学会大会
会長 笹子 三津留
(兵庫医大・外科(上部消化管外科))
会長:笹子三津留

近代消化器外科において、我が国が果たした役割はきわめて大きい。ことに癌治療における外科手術コンセプトの完成、技量の洗練においては多くの欧米人消化器外科医に多大な影響を与えている。20世紀後半に足跡を残した欧米外科医の多くは、日本の手術に影響を受けている。いわば、江戸時代の元禄文化が多くの印象派のアーティストに与えたインパクトに匹敵するものである。我が国特有の「技量の鍛錬と完成」に価値を見いだす外科文化は、技量や手技の均一化、少なくとも同じ方向を目指そうとする流れを作ってきた。それは時に、無批判な「の手術」を生み出し、患者さんに迷惑をかける時期があったように思うが、そのような背景と歴史があったからこそ、後に手術手技同士を比較するといったがんの外科においては、世界で成功例のなかったランダム化比較試験を成功させることにつながった。手技に皆がこだわることは手術や解剖を深く考察することにつながる。無批判にのめり込むと「至難の技ができること」がゴールとなってしまい、それが「患者さんに利となるのか」が二の次になってしまう場合もあるが、手技のレベルが一定になった時点で、その意義を科学的に検証するという姿勢を保持する限り、それがどのような手術であろうとも、歴史の流れにおいては大きな間違いにはつながらないと思われる。

一方で、消化器がんの早期診断においても我が国は世界に大いに貢献しており、小さな消化管がん、肝がん、などの発見を通して、小さな切除の発展をリードしてきた。この結果、外科手術を免れる早期がんの患者が激増し、いまや早期胃がんでは内視鏡的治療を受ける患者の方が外科手術を受ける患者より多い状況となっている。どんなに小さな創で手術をしたとしても、所詮胃を切ってしまえば大差のない世界である。しかし、胃を切らずに治す手術の研究はESDで止まっており、胃を残しながらがんを治す手術の研究が疎かになっていることは残念である。消化器内科、消化器内視鏡医と外科医がより緊密にタッグを組めば、もっと多くの早期胃がん患者は胃を切らずにすむ時代が来ると思われる。

このような観点から、本会では治療選択の微妙な領域において内科外科がともに議論をする場をより多くするようにした。また、外科治療後に様々な内科的治療が必要な病態など、多専門家の協力が不可欠な問題も取り上げている。

行政サイドが描いている将来の医療では、分業化とあいまった、より高度な専門化とプライマリーケア医が基本的に患者を診ていくという構図ができており、外科医が診断、治療、経過観察とすべてを行う時代はまもなく終わると予想される。このような将来に向けて、消化器疾患を専攻する外科医が何を知っておくべきで、どのように他の専門家と共同作業を展開するかを学べる会としたい。皆様の積極的な参加により、若手からベテランまで、満足のできる、有意義であったと思える会になることを期待している。

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