特別講演(肝臓学会)
10月30日(木) 9:00–9:30 第5会場(ポートピアホテル南館 大輪田A)
特別講演10

肝硬変合併症診療の最前線2025

吉治 仁志
奈良県立医大・消化器・代謝内科
 肝硬変各種合併症に対する診療はパラダイムシフトとも言えるような進歩が見られている.肝硬変は従来不可逆性と考えられていたが,病態解明が進み,近年の研究から適切な治療を行うことにより緩徐ではあるものの可逆的に改善することが明らかにされている.肝硬変の原因は以前とは大きく異なってきており,2023年に日本肝臓学会が行った全国調査で,我が国における全肝硬変の半数以上が肥満や生活習慣病を有することが多い非ウイルス性となっていることが報告されている.非ウイルス性肝硬変はウイルス性肝硬変に比べて肝癌の発生率が低いことが知られており,発癌抑制に加えて今後は肝硬変の病態を理解した上での各種合併症治療が臨床的にさらに重要になってくると思われる.2020年に日本消化器病学会と日本肝臓学会の初めての合同作成による肝硬変診療ガイドライン第3版が発行された.第3版作成委員会では毎年Annual Reviewを作成して年次毎のブラッシュアップを行ってきた.第2版からかなり踏み込んで大きく変更した項目もいくつかあったが,毎年の文献を網羅的に検索するにつれ,概ねCQ解答の妥当性が明らかになっている.また,基本的事項であるBQにおいても実臨床で大きな変化が見られている.難治性腹水に対するアルブミン使用に関して,これまでは非常に厳しい用量制限がかかっており海外のエビデンスやガイドラインとの乖離が大きな問題であった.2022年3月に厚労省より疑義解釈資料が発行され,大量腹水穿刺(LVP)時に充分量のアルブミンを保険診療として投与する事が可能となった.また,腹水濾過濃縮再静注法(CART)に関しても多施設臨床研究の結果が報告され,LVPと同等の治療効果を有する事が示された.肝硬変患者の予後と腎機能の関連が近年注目されているが,AKIの治療薬も2025年から我が国で治験開始予定である.肝性脳症に関しても,海外で広く使用されている難吸収性抗菌薬のリファキシミンに関しては日本人での3年間の安全性・有効性が示されると共に肝予備能改善作用など新たな知見も見いだされている.亜鉛製剤など他の治療薬に関して日本人における報告が相次ぎ,新規薬剤も上市されている.不顕性脳症に関しても治療介入の重要性に関するデータが蓄積されており,第4版ではこれらの新規知見を踏まえた記載になるものと思われる.一方で,第4版では大きく変更を要する項目も多々存在することが明らかとなっている.血小板増加薬であるトロンボポイエチン受容体作動薬のアルゴリズムも,当初認可されたルストロンボパグとアバトロンボパグでは使用基準が異なっており,改訂が必要である.栄養療法は成因の変化により過栄養の症例も増えており,アセスメントを含めて根本的に再考が求められている.2024年のAASLD-JSHジョイントシンポジウムにおいて静脈瘤出血に対するアプローチでも明らかになったように,我が国と海外の治療法には様々な相違点も存在する.肝硬変は単一の「疾患」ではなく複合的な「病態」であることから多面的な検討が求められており,現在改訂作成作業が進んでいる肝硬変診療ガイドライン第4版では,2026年に出されるBaveno VIII基準との整合性を考え,Globalに通用すると共に多くの新規知見を取り入れて実地臨床にさらに役立つ診療ガイドラインとして作成されることが期待されている.
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